


私たちのプロジェクトは非常に広範にわたり、中心となる研究からEducationまで多様な活動を展開してきた。しかし、プロジェクトを通して合成生物学への貢献をする姿勢を一貫させてきた。
プロジェクトテーマに据えた機械学習を用いた配列ベースでのタンパク質改良は、より有用な生き物を作るという合成生物学の1ゴールに大きく寄与するものだと理解している。さらに、私たちはそのような努力のもと生まれたModelを機械学習の専門家以外の研究者や企業にも使ってもらうため、Softwareを開発した。これによって合成生物学の裾野を広げることができる。加えて、合成生物学さらには生物学に興味を持ってもらい、次世代を育成するためにEducationにも力を入れ、社会とのつながりを維持してきた。
一貫した合成生物学への寄与というテーマのもと、社会への影響を考慮しつつ各計画がより精緻なものになるよう、適切な専門家に話を聞いてきた。これによって、プロジェクトが社会に与えるインパクトや需要を知ると同時に、研究開発にフィードバックすることによってより良い成果物を作り上げることに成功した。
次の段落から、Project、Software、Educationの3つのカテゴリーに分けて各Human Practiceを整理していく。各カテゴリーの分類の概要は以下に示す通りである。
各カテゴリーごとのSummaryでは、カテゴリーごとのHuman Practicesの総括を示している。 以降がその各論である。
私たちはCERESというプロジェクトを通して、今まで労力や専門性の観点で取り組みにくいこともあった、タンパク質改良を機械学習を用いて労力を減らすとともに多目的最適化を行えるModelを作ることを目指した。そのProjectの進め方を決定するためにHuman Practicesを行った。取り組みたいテーマに対して、私たちには当初機械学習の知識が全くなかった。そのため、機械学習の基本から教えてもらい、どのようなシステムの中でモデルを開発するかを決定した。どのように利用するか、またその先で、我々の技術を検証するのに適切なタンパク質の条件や、実際に利用される場合の需要について調査した。CERESを進めていくにあたり、膨大なwet実験が必要になったことによるラボメンバーの多大な負担を減らすため、無細胞系を用いた実験を導入した。これにあたり、無細胞系についての知識を得るためのHuman Practiceを行った。
これによりプロジェクトの基盤となる知識を身につける糸口、その先の需要を把握したことによってどのシステムを用いて、具体的にどのような結果を得られることをゴールにするか、決定することができた。
Date: 15/Dec/2023
Who: M.Y. 教授
Summary:
機械学習の専門家との議論を通じて、タンパク質言語モデルの事前学習には膨大な計算資源が必要で我々には実行不可能だと判明した。そのため、既存の事前学習済みモデルを活用する方針へとプロジェクト計画を根本的に修正した。
Elaboration:
私たちのプロジェクトは、生成モデルと予測モデルを組み合わせた独自のタンパク質最適化モデルの構築を目的としている。当初、我々は機械学習に関する知識が乏しく、モデル学習に必要な計算資源やデータ量について具体的な見通しが立っていなかった。そのため、専門家に助言を求めた。
近年の言語モデルの性能向上は、国家プロジェクト規模の計算資源を要する大規模な「事前学習」によるものであることはわかっていた。我々は当初、モデルの事前学習から行いたいと考えていたが、専門家との対話から自前でこれを実行することは、資金的・技術的に不可能であると明確に理解した。
この知見は、我々のプロジェクト計画に決定的な影響を与えた。「ゼロからモデルを構築する」という漠然とした当初の方針から、「公開されている事前学習済みタンパク質言語モデルを、我々の目的に合わせてファインチューニングする」という、具体的かつ実現可能なアプローチへと計画を修正した。これにより、限られたリソースを、私たちの特定の目的に合わせたモデルの調整(ファインチューニング)と、生成・評価サイクルの構築に集中させることが可能となった。 この戦略的転換により、計算資源という最大の障壁を回避し、プロジェクトの実現可能性を大幅に高めることができた。この決定は、我々の研究開発における重要な方向修正となった。
Date: 18/Mar/2024
Who: H.Y. 博士 (タンパク質言語モデル専門家)
Summary:
当初我々が考案した「Co-evotuning」が、教師なし学習であるEvotuningを誤解した手法であることをご指摘いただいた。このフィードバックを受け、AIを用いたタンパク質設計のアプローチを、より現実的で目的に即した「多目的最適化」へと全面的に方向転換した。
Elaboration:
我々は当初、タンパク質の多目的最適化のため、Evotuningという手法を応用した「Co-evotuning」という独自手法を考案していた。しかし、その実現性に確証が持てなかったため、専門家に助言を求めた。
専門家からは、Evotuningが配列自身を正解とする「教師なし学習」の手法であり、酵素活性値といった測定データを基に最適化を行う我々の目的とは異なるとのご指摘をいただいた 。博士は、我々の目的が「多目的最適化」や「マルチタスク学習」と呼ばれる分野に該当することを明確に示してくださった 。さらに、具体的な代替案としてpLMの一種であるESMとガウス過程回帰を用いた教師あり学習の論文を提示していただいた 。また、我々が検討していたベイズ最適化についても、変異導入箇所を絞らなければ計算量が爆発的に増加するという、実用上の重要な課題をご教示いただいた 。
この専門的な助言は、我々のプロジェクトの根幹を揺るがすものだった。Co-evotuningという独自手法を破棄して、博士の指摘に基づいて、実現可能性の高い教師あり学習による多目的最適化へとDry班の研究計画を完全に再設計した。 この対話は、我々のAI設計における根本的な誤りを正し、プロジェクトを科学的に妥当な軌道に乗せるための決定的な転換点となった。
Date: 18/Mar/2024
Who: Y.S. 博士 (産業技術総合研究所)
Summary:
プロジェクトの目的に対し、AIモデルの「教師あり学習」と「教師なし学習」の使い分けが重要であるとご教示いただいた。この助言に基づき、当初の構想を破棄し、特定の機能値を条件として配列を生成する、より高度で具体的な教師あり学習の手法を導入することを決定した。
Elaboration:
我々のプロジェクトの初期構想「Co-evotuning」について、その実現可能性を評価するため、pLM研究の専門家である専門家にご意見を伺った。
専門家からは、まずpLMの基本的な使い方として、実験データを必要とする「教師あり」と配列データのみを用いる「教師なし」の2種類が存在することを丁寧に解説いただいた 。そして、酵素活性と発現量の両方を同時に向上させたい我々の目的の場合、それぞれの教師データが必要になることを明確に示された 。我々が最終的に目指す「教師あり学習による配列生成」という課題に対しては、博士は単なるアプローチの指摘に留まらず、Conditional VAEのような「条件付き生成モデル」を用いる方法や、ProGen2のような生成モデルを強化学習でファインチューニングする方法など、極めて具体的かつ専門的な手法を複数ご提案くださった 。
博士からのフィードバックは、我々が抱いていたEvotuningへの誤解を正すだけでなく、その先の「では、何をすべきか」という問いに対する明確な道筋を示してくれた。結果として、我々はCo-evotuningという曖昧なアイデアを完全に捨て、博士にご教示いただいたpLMによる「教師あり・教師なし」学習の使い分けをプロジェクトのDry班計画に正式に採用した。

Date: 23/Mar/2024
Who: 都築 拓 様 (Epistra Inc.)
Summary:
機械学習専門家との対話を通じて、プロジェクトで扱うべきタンパク質の具体的な選定基準(データ量、評価容易性、合成コスト)を確立した。これにより、基準を満たす蛍光タンパク質(GFP)をモデルケースとして研究を進めるという、実現可能な計画へと大きく前進した。
Elaboration:
私たちはiGEMの限られたリソース内で行うタンパク質改良手法の開発を実現可能なものにするため、どのタンパク質をモデルタンパク質として選ぶべきかについて、Epistraという機械学習を専門に扱う会社に所属する都築様にご助言を求めた。都築様との議論を通じて、成功のためには対象タンパク質がいくつかの重要な条件を満たす必要があると明確になった。具体的にモデルタンパク質に求める要素として、モデル学習のための豊富な公開データセットが存在すること、大腸菌などで容易に発現させプレートリーダーなどでハイスループットな機能評価が可能であること、そしてモデルが提案した配列をコードする遺伝子を低コストかつ短期間で化学合成できることが挙げられた。これらの基準を元に検討した結果、蛍光タンパク質(GFP)が、豊富なデータベース(FPBase)、確立された発現・測定系、そして現実的な遺伝子合成コスト(約750bp)という全ての条件を満たす、本プロジェクトのモデルケースとして最適であると結論付けた。
また、GFPであれば、輝度や蛍光波長(色)、熱安定性という様々な指標がデータベースに公開されており、最適化すべき複数の指標を用意に取得できることが分かった。
この専門家との対話は、私たちのプロジェクトで扱うべきタンパク質の具体について理解をするにつながった。

Date: 22/Oct/2024
Who: 貫井 憲之 様(BioPhenolics Inc.)
Summary:
企業の研究開発における最大のコスト要因が人件費とそれに伴う開発期間であることを学び、実験回数を最小限に抑える「in silico完結型」のアプローチこそが産業界のニーズに最も合致するという結論に至った。
Elaboration:
当初、我々のタンパク質設計アプローチとして、計算とwetな実験を繰り返す「アクティブラーニング型」と、少数の初期データから最適配列を一括で予測する「in silico完結型」の2つの選択肢で検討を進めていた。どちらが産業界でより実用的な価値を持つかを見極めるため、企業の研究開発の専門家である貫井様にご意見を伺った。
貫井様との議論から得られた最も重要な知見は、企業における研究開発の最大のコストネックが、試薬や機材費以上に「人件費」という点である。研究員一人当たり年間100,000 USDの費用が発生するため、wetな実験サイクルを何度も繰り返すアプローチは、たとえ最終的な精度が高くとも、開発期間の長期化が直接的にコスト増大に繋がってしまう。この事実は、バイオベンチャーやiGEMerがタンパク質改良に着手する障壁になっている。
この対話を経て、我々はプロジェクトの技術戦略を明確に決定した。バイオベンチャーやiGEMerが直面する「時間的・金銭的コスト」という最大の課題に応えるため、我々は実験サイクルを最小限に抑える「in silico完結型」のアプローチを正式に採用した。 貫井様との議論で「改良したいタンパク質に対して、ホモログ40個程度のデータセットでもあれば検討の余地がある」という示唆も得られたことから、我々の手法は、企業が用意可能な比較的小規模なデータセットからでもwetな実験ループを必要とせずに最適化された配列候補を提示できるモデルの作成に方針を変更した。この方針転換により、我々のプロジェクトの目標は、単に高機能なタンパク質を設計することから、「産業界の現実的な制約下で、開発期間とコストを劇的に削減する設計プラットフォームを構築すること」へと、より具体的かつ実践的なものへと進展した。
Date: 28/Apr/2025
Who: 西ヶ谷 有輝 様 (AgroDesign Studios)
Summary:
我々が開発したタンパク質改良モデルの有効性を検証するにあたって、検証に用いるタンパク質の選定に悩んでいた。そこで、構造生物学やタンパク質設計を事業とするAgroDesign Studiosの西ヶ谷様に、改良手法の有効性を検証するのに適切なタンパク質についてアドバイスを聞いた。そこで「技術に最適なタンパク質を探すのが重要」という助言を受け、技術の正しさをシンプルに示すβ-ラクタマーゼと、社会課題解決への応用性を示すPETaseという、役割の異なる2つのタンパク質アッセイ対象に加えた。
Elaboration:
我々が開発したタンパク質改良モデルの有効性を検証するにあたり、どのタンパク質を対象とすべきかという点で課題を抱えていた。この課題を解決するため、構造生物学とタンパク質設計を専門とするAgroDesign Studiosの西ヶ谷様に助言を求めた。西ヶ谷様からは、産業界におけるタンパク質工学の成功の鍵は、自分たちの改良手法に最も適した酵素を探索することであり、企業がこの探索プロセスに数ヶ月を費やすこともあるという、非常に貴重な知見をいただいた。
この専門的な視点からのアドバイスは、我々の実験計画に決定的な影響を与えた。我々は、単一のタンパク質を漠然と改良するのではなく、我々の技術プラットフォームの汎用性と有効性を同時に示すという明確な目的のもと、特性の異なる2つのモデルタンパク質を選定した。
Proof of Principle (原理証明) としてのβ-ラクタマーゼ: この酵素は活性評価が抗生物質耐性の有無で簡便かつ明確に判断できる。これは、西ヶ谷氏との対話で浮き彫りになった産業応用における検証コストや複雑さという課題を回避し、我々のモデルの有効性を純粋に示す上で最適な題材である。
社会的インパクトと応用性を示すPETase: この酵素は、世界的なプラスチック汚染問題に直接関連し、社会的インパクトが非常に大きい。熱安定性などに改善の余地が知られており、我々の技術が実用的な課題解決への応用性を示す格好のターゲットとなる。
このように、由来も機能も全く異なる2つの酵素を対象とすることで、我々の技術が特定のタンパク質に限定されない汎用的なプラットフォームであることを効果的に示すという、明確で説得力のある実験計画を立てることができた。

Date: 08/Sep/2025
Who: 海老原 隆 様 (ジーンフロンティア株式会社)
Summary:
Wiki Freezeという時間的制約から、多数の配列を評価する必要がある我々のプロジェクトでは大腸菌を用いたタンパク質発現が非現実的であると判断した。そこで専門家の助言を基に、迅速な評価が可能な無細胞タンパク質合成系へと実験系を全面的に移行した。
Elaboration:
私たちのプロジェクトでは、機械学習で設計した48種類ものタンパク質候補の機能評価(アッセイ)を行う必要がある 。しかし、iGEMの最終評価に関わるWiki Freezeの期日が迫っており、形質転換や培養といった工程に時間のかかる従来の大腸菌発現系では、全ての配列を評価しきれないという重大な問題に直面していた 。この問題を解決するため、無細胞タンパク質合成系「PUREfrex」の開発元であるジーンフロンティア株式会社の専門家に助言を求めた 。協議の結果、無細胞系は作業効率とスピードに優れ、特に我々のような多数の候補を扱う機械学習的アプローチと非常に親和性が高いことを確認できた 。この専門家の見解を受け、我々は実験計画を根本的に見直し、大腸菌発現系を用いる当初の方針を完全に破棄した。そして、プロジェクトのwet実験の根幹を無細胞合成系に移行させることを決定した。この判断は、Wiki Freezeという絶対的な期限内にプロジェクトの目標である多数のタンパク質評価を完遂するための、不可欠な戦略的変更であった。
私たちはCERESで得られたモデルであるLEAPSをSoftwareとして公開し、機械学習の専門的な知識がなくても機械学習の手法を用いたタンパク質改良ができることを目指した。そのSoftwareとしての開発・公開を行うにあたり、計算資源からUI、公開後の安全性に至るまであらゆる課題を解決するためにHuman Practiceを行った。
Softwareに関連するHuman Practicesは、専門家からの知見と新たな課題に対するヒントを連鎖的にもらうことができた。特に、毒性タンパク質の危険性を指摘されたのち、医学系の専門家、製薬会社にその研究の内容についてや、フィルタリングの範囲を聞き、さらにそこで輸出関連の課題を指摘されたことによって次のHuman Practiceに繋げた部分は非常に有意義なインタビューができたと考えている。また、同じトピックに対して別々の意見をもらったことにより、立場が異なればその利益となる範囲が大きく異なってくることを目の当たりにし、実装における毒性タンパク質のフィルタリングの範囲をより良く考えることができた。
幅広い人々を対象にするにあたり、さまざまな立場の専門家に話を聞けたのは非常に貴重で有用であり、その全てを踏まえて我々なりの答えを模索し、実装することができた。
Date: 12-25/Jun/2025
Who: 建部修見教授, 金尚泰教授, 原田隆平准教授, 若林啓准教授, 藤澤誠准教授, 福地一斗助教, 阿部紘子さん
Summary:
LEAPSモデルのSoftware化には、モデルの改良とともに計算資源が必要である。そこで我々は、筑波大学の研究者にコンタクトを取り、計算資源としてGPUの貸し出しの協力を申し出た。その結果、GPUの貸し出しは研究倫理やセキュリティの問題から難しいとの結論を得た。これらの問題を回避するために企業が提供している計算資源を使用する方針を決定した。
Elaboration:
タンパク質改良の機械学習モデル、LEAPSは学習のフェーズにおいて膨大な時間を要する。このモデルをSoftware化にするにあたって、一つのリクエストに対する処理時間の短縮および多数のリクエストの処理を可能にする必要がある。これらの問題を解決するために、並列処理を可能にするGPUの使用が最適であると考えた。そして、学生でGPUを購入することは難しく、所持しているGPUの数には限りがある。そこで我々は筑波大学内の複数の研究室にGPUの貸し出しをお願いした。しかし、研究室のGPUの貸し出しは研究倫理やセキュリティ上の問題がある。これらの問題を回避するためには、独自のセキュリティが整えられ、利用者の目的によって自由に使用できる企業の計算資源が最適であるとの結論を得た。そのため我々はさくらインターネット株式会社に協賛を依頼し、これによるSoftwareの処理の高速化を試みた。
Date: 31/Jul/2025 - 12/Aug/2025
Who: 宮前友策准教授, 原田隆平准教授, iGEM Japan Community
Summary:
協賛によって計算資源の問題が緩和されたが、フルスペックモデルを搭載したSoftwareの高速化には限界がある。iGEMerに対しては一つのリクエストあたりにかかる待機時間とモデルの性能に関わるアンケートを実施した。研究者に対してはアンケートに加え、入出力やパラメータ設定の形式に関する調査も行った。その結果、どの精度であっても5日であれば待機可能という回答を得た。加えて、.fastaファイル形式での出力が望ましいとの意見も得られた。この回答をもとに、モデルの縮小規模や研究用途で扱いやすいUIへの改良を行った。
Elaboration:
さくらインターネットのGPU提供によって計算速度が上昇した。しかし、フルスペックのLEAPSモデルをSoftwareとして公開するためには待機時間が10日以上になってしまうという課題があった。長時間の待機はSoftwareのユーザビリティに大きく関わるため短縮の必要があったが、どの程度の待機時間であれば利用者が待つことができるのかが不明であった。また、実際にタンパク質研究をする際に幾つのパラメータ設定があると良いのかやよく用いられるファイル形式等のUIに関しても学生には測りきれない要素が多数あった。そこで、LEAPS-Softwareの主なユーザーと考えられるタンパク質改良や創出に関わる研究者やiGEM Japan Communityのメンバーに待機時間やUIの調査のアンケートを実施した。
待機時間に関しては、3~8割のそれぞれの割合で学習データに用いた配列よりも機能の高い配列が出力される時に何日待機できるかを調査した。UIでは、設定可能なパラメータ数やその設定形式、保存機能の有無等を調査した。また、望ましい出力形式や信頼性スコアの有無についてもアンケートを行った。その結果、iGEM Japan Communityではどの精度でも5日、研究者からは精度が5割以上であれば7日以上待つことができるとの回答が多く得られた。また、UIに関しては設定できるパラメータ数は3~5つ程度、プルダウンと任意の数値による2つの入力形式を設け、保存機能もつけるべきとの意見を頂いた。出力形式に関しては、配列編集ソフト等との互換性から.fasta形式でのダウンロードが望ましく、信頼性スコアも提供されるべきという回答結果だった。
これらのアンケート結果から、モデルのハイパラメータ設定の取り消しやモデルのモジュール化による計算時間短縮を決定した。また、利用者のニーズに沿ったUIとなるよう、パラメータや出力のUI改良を行った。
Date: 20/Aug/2025
Who: 木賀大介教授, 黒崎陽平准教授
Summary:
悪用リスクのあるタンパク質を網羅したブラックリストをLEAPSに実装するにあたり、専門家から日本の特定病原体リストや米国のSelect Agent and Toxin (SAT)リストを参考にすべきとの助言を得た。
Elaboration:
私たちの開発するタンパク質改変ツールLEAPSは、理論上あらゆるタンパク質の機能を改良できるため、毒素やアレルゲンなどの有害タンパク質の機能増強に悪用されるデュアルユースのリスクを内包している。このリスクを低減するため、特定のタンパク質の改変を防ぐブラックリスト機能をソフトウェアに実装することを計画した。しかし、どのタンパク質をリストに含めるべきか、その基準が不明確であった。そこで、合成生物学の専門家である木賀教授と、バイオリスクマネジメントの専門家である黒崎先生にご意見を伺った。木賀教授からは日本の法律で規制されている「特定病原体等」を、黒崎先生からは米国疾病予防管理センター(CDC)が定める「Select Agent and Toxin (SAT)」リストを初期のブラックリストの基盤とすることを提案された。この専門的助言に基づき、私たちはこれらの公的なリストに含まれる生物由来のタンパク質を網羅的に調査し、データベース化してLEAPSのセーフティプロトコルに直接統合する作業に着手した。

Date: 28/Aug/2025
Who: 宮前友策准教授、Han Lu D1(筑波大学生物有機化学研究室)
Summary:
我々の開発するSoftwareをタンパク質研究を行う人々に広く使ってもらう目的を達成するため、ユーザーが必要とする機能を使いやすいUIで実装する必要があった。ユーザーとなり得るのはタンパク質の機能に関する研究を行っている研究者であるため、筑波大学生物有機化学研究室の宮前准教授、同研究室に所属するD1のHanさんに話を聞いた。その結果、入力配列と出力配列を比較できるような返し方が良いことや、使いやすさの面でチャット形式は優位であることがわかった。また、研究過程の未公開データを入力し、第三者の元に保存されることに対する抵抗ががあることが新たにわかった。
Elaboration:
アンケートの結果や、いくつかのメールでのやり取りからSoftwareに実装するべき機能や目指すべきサービス提供の速度がある程度固まってきていたため、実際にユーザーになる可能性のある方にインタビューをして、より詳細な機能やUIに必要なものを調査する必要があった。そこでタンパク質の研究をしている宮前准教授、およびその研究室に所属する博士課程のHanさんにお話を伺った。
まずUIに関して、最終的な配列をどのようにユーザーに返すべきかを掘り下げた。出力配列は遺伝子配列やアミノ酸配列の表現によく用いられるファイル形式である.fastaと.csvの両方の形式で取得できると使いやすいとのことであった。表示される際の工夫としては入力した配列と、改良された出力配列を比較できるような表示形式を実装することができれば、配列の変化と機能の変化の対応がわかりやすく、さらなる研究に繋げやすく有意義な情報を取得できるのではないかという意見を得た。またチャット形式のUIは馴染みがあり、直感的に操作しやすいとの感想を頂けた。
次に、これまで議論してきた毒性タンパク質の毒性の増強による悪用について意見を求めた。このリスクについては認めていただけたが、宮前准教授の専門外であるため、より詳細な情報を得るためには医学医療系の専門家へのヒアリングが必要であるとの意見をいただいた。これに加えて、新たに研究者の未公開のデータをWebアプリケーションに入力することに対する強い抵抗感が明らかになった。悪用された場合に備え、Softwareに入力された配列を一定期間保持することは必要である一方で、研究者にとって研究の核心をなす未公開情報が第三者の手に渡り、保持されることは最も警戒するべき事項の一つである。このことから、我々は入力データを自らが利用しないことは前提として、情報セキュリティの確保とデータの保持に関する明確なポリシーを設計し、利用者に表示する必要があることを認識した。このようなデータ保持への懸念や、悪用のリスクを技術的に完全に排除することは不可能である。そのため、免責事項の策定を行いサービス提供側である私たちの責任を明確にするとともに過剰な責任を負わないようにすべきであるとの指摘を受けた。
その他、インタビューを通してこのモデルの有用性を確認することができた。より使いやすく信頼されるサービスを提供するため、新たにここで得た情報を元に、出力配列をよりわかりやすく表示できるUIの設計および免責事項の作成を進めていくこととした。
Date: 29/Aug/2025
Who: Integrated DNA Technologies(IDT)
Summary:
タンパク質の改良には毒性タンパク質や病原性に関わるタンパク質などを改良されるリスクがある。そこで我々は遺伝子において同様の対応が必要と考えられるIDTに対してブラックリストにどのようなタンパク質を含めるべきかを伺った。また、免責事項の内容やどのようなUIを使用しているかについても教えていただいた。その結果、ブラックリストの外部への公開はリスクを伴うため、慎重になるべきであるという示唆を得た。また、免責事項に関しては毒性や感染性等の複数の観点から同意させ、利用者本人の署名による形式を実装することを決定した。このHuman Practiceの結果、ブラックリストは我々独自に構築する必要があることがわかり、そのための追加調査を実施した。
Elaboration:
理論的にあらゆるタンパク質を改良できるSoftwareにはブラックリストを設定したシステムによるフィルタリングが必要である。これには毒性タンパク質や病原体の感染に関わるタンパク質が含まれるべきである。しかし、学生である我々がタンパク質の選定からブラックリストの作成を始めるのは困難である。また、ブラックリストのみで対処できないリスクに対しては免責事項による誓約という手段を取ることができるが、これに関しても学生の知識では不十分な点が多い。そこで我々はDNA合成企業であるIDTにコンタクトを取り、ブラックリストの内容と免責事項について伺った。
インタビューの結果、遺伝子合成を行う企業の多くはInternational Gene Synthesis Consortium(IGSC)に加盟し、それに基づいた対応が行われていることがわかった。また、その内部情報は安全性の観点から学生に公開することは難しいとの回答も得られた。このことから、ブラックリスト作成後にその情報を公開するべきかは慎重に判断するべきであると言える。iGEMはそのコミュニティへの貢献として成果物を公開することが多くの場面で求められるが、安全性の観点からブラックリストについては条件をつけての公開等の対策を考慮する余地があると感じた。
また免責事項に関しては、IDTが実際に使用している書面を共有していただいた。免責事項は「毒素を一部でもコードしてるか」、「動植物の病原体に由来するか」、「感染性のあるウイルス、またはそれ自体が宿主内で複製可能か」などの項目からなっており、その他の規約にも同意することで発注が可能となるものであった。
これらの情報から、我々はブラックリストの公開を制限し、他チームが必要な場合には誓約書等によって厳格なセキュリティのもとでの受け渡しが望ましいと考えた。また、免責事項に関しては遺伝子合成企業に倣い、毒性タンパク質や感染性・病原性に関わるタンパク質の使用の有無を確認するUIを導入することを決定した。

Date: 01/Sep/2025
Who: 川口敦史教授(筑波大学分子ウイルス学研究室)
Summary:
タンパク質を改良できる技術はデュアルユースのリスクがあり、ウイルスの改良はその好例である。そこで私たちは川口教授にデュアルユースとは何か、またそれに関わるウイルスや毒素タンパク質のフィルタリングレベルをどの程度のものにするべきかをインタビューした。その結果、ウイルスのスパイクタンパク質の改良に制限をかけるべきという意見をいただいた。この情報をもとに我々はブラックリストの再考を行いつつ、関連法や倫理的問題・社会的責任に関するさらなる調査を実行した。
Elaboration:
我々の開発したSoftwareはあらゆるタンパク質を改良することができる。そのため、あらゆる視点から危険なタンパク質を選定し、それらをまとめたブラックリストの作成のために専門家に意見を伺った。その過程において、ウイルスタンパク質はデュアルユースとなるリスクを孕んでおり、ブラックリストの候補として有力であると考えた。そこで我々は筑波大学分子ウイルス学研究室の川口敦史教授にウイルスタンパク質の改良に規制するべきか、またするならばどの程度の規制が妥当であるかを伺った。
ウイルスは今までに感染力を示さなかった生物種に対して感染力を持った際に大きなリスクとなるため、同系統のウイルスであっても異なる種へ感染するウイルスの遺伝子を同データセット内に含めることを規制するべきとの助言をいただいた。これらの遺伝子は配列相同性によってフィルタリングする手法が考えられるが、数アミノ酸の変異で感染特異性が変化することもあり、これのみでは安全性が不十分と考えられた。ウイルスは変異速度が早いため増殖能が低い場合でも感染力がある場合には宿主での増殖能が強まるような変異が獲得される可能性が高い。そこで、安全性を優先し、一度ウイルスのスパイクタンパク質をブロックし、徐々にその規制に流動性を持たせるといったステップが妥当ではないかとの意見をいただいた。これに加えて、スパイクタンパク質はアミノ酸配列は異なっても立体構造の類似性があることから立体構造によるフィルタリングがより有効である可能性が考えられた。また、危険な規制の流動性に関わらず、病原性や感染性に関わるタンパク質の改変に対する免責事項の提示が必要であるとの意見をいただいた。
我々は、どの程度の危険性を持つものをフィルタリングすべきかという根拠についても質問した。その結果、第一種病原体に含まれるものや大臣確認実験に該当するような遺伝子を取り扱う場合の規制を基準にフィルタリングやブラックリストの決定を行うのが安全であるとの評価をいただいた。また、毒素に関しても大量培養に該当するかなどの基準を設けて設定するなどの対応策をご提示いただいた。
これらの助言をもとに、我々はブラックリストに含める遺伝子の再考を行い、ウイルスのスパイクタンパク質をブロックすることを決定した。また、関連する法規制であるカルタヘナ法の詳細、また倫理的問題・社会的責任の観点からフィルタリングについて考えるために学術調査官である岡林准教授をご紹介いただき、より正確な情報収集を行なった。

Date: 02/Sep/2025
Who: 吉田隆雄さん、井田孝さん(小野薬品工業株式会社)
Summary:
毒性タンパク質や病原体の研究は、悪用リスクを伴う一方で、新薬やワクチンの開発に繋がる可能性も秘めている。セーフティを開発する上では悪用リスクだけでなく、有益な開発についての知見を得る必要がある。そこで小野薬品工業株式会社研究本部の吉田さんと井田さんに、毒性タンパク質や病原体に関するブラックリストのあり方、毒性タンパク質の取り扱い、その他の危険性について意見を伺った。その結果、創薬研究において高い生理活性を持つ物質は量や使用条件次第で毒にも薬にもなり得るため、単純な基準で線引きすることは困難であると示された。このため、悪用リスクのある毒性タンパク質であっても、創薬研究の観点から研究対象から完全に排除することは望ましくない場合もあることがわかった。さらに、これまでの懸念に加えて輸出規制にも考慮する必要性があることを指摘された。これらを踏まえ、我々はブラックリストの構成要件の再検討や正当な研究へのSoftwareの利用を妨げない仕組みづくりに加え、法規制についてさらなる調査を進めることとした。
Elaboration:
ここまでのHuman Practicesでは、ブラックリストに含めるべき毒性タンパク質や病原体の候補を挙げ、そのデュアルユース性について議論してきた。今回、具体的な創薬現場での研究実情、ブラックリストのあり方、毒性物質の扱い方やその他の危険性についての理解を深めるため、小野薬品工業株式会社の研究本部に所属している吉田さんと井田さんに意見を伺った。なお、以下の内容は両氏の個人な意見であり、同社の公式な見解ではないことに留意されたい。
まず、毒性タンパク質について、適正な研究の推進と悪用リスク排除のバランスが難しいことが強調された。毒とは本来、生理活性が極めて高い物質が許容量を超えて作用した状態であり、適切な量を適切な場所に届ければ薬となる。毒性タンパク質の保持量を基準にした規制も考えられるが、発現させる宿主や取り扱う実験設備環境といった要素も考慮する必要がある。また、病原体は構成タンパク質単位で規制されているのではなく、実験系や定義によって毒性の判断が揺らぐこともあるため、特定タンパク質の毒性を断定的に評価することは難しい。
一方で、毒性タンパク質や病原体、さらにはそれらを構成するタンパク質であっても適切な研究を行えば、そのものが医薬品になることや、医薬品やワクチンを開発する足掛かりになることなど、患者さんを救うキーとなる可能性を秘めている。この点で、創薬研究を行う立場としては、ブラックリストによる一律規制は、正当な研究を過度に制限しかねないとの指摘を受けた。
このような意見や指摘から、規制対象とするタンパク質のブラックリストを作成することは容易ではないことを改めて認識した。一方で、デュアルユースのことを考えた時に何かしらの制限を設けるとすれば、既存の第一種病原体リストなどを参考とし、利用申請時の誓約書や免責同意画面を導入して、利用者の責任範囲を明確化することが推奨された。これは今までのHuman Practiceでも勧められたことで、それを後押しする形になった。さらに、輸出入の規制を私たちの研究や成果物にも適用する必要がある可能性を指摘された。例えば、特定国家への輸出管理規制では、病原体や関連システムの輸出が制限されることから、本プログラムを公開する際は、遺伝子配列情報やソフトウェア機能が該当し得ることに留意する必要があるとの示唆を得た。
以上の助言を活かして、ブラックリスト、免責事項および宣誓事項の検討を進め、輸出規制に関しては専門家の意見を取り入れることとした。そして、様々な検討事項はあるがこのような検討を踏まえてブラックリストや免責事項を考えることでiGEMというコミュニティ全体に対して、今後ますます盛んになるであろう機械学習によるタンパク質改良研究の潜在的リスクについて課題提起を行う決意を新たにした。

Date: 03/Sep/2025
Who: 橋本義輝准教授(筑波大学微生物育種工学研究室)
Summary: Softwareの公開にあたり、これまでのHuman Practiceの中で、デュアルユースの可能性やその対策としてのブラックリストによる危険配列のフィルタリングによるセーフティについて議論してきた。しかし、配列情報をAIに渡すことや未公開の改良した配列情報を我々が取得できることに対する懸念は解消されていなかった。そこでこれらの権利関係の不確実性を排除するためにどのような手段が有効であるかを専門家に伺い、機密保持の宣誓等の内容を実装することを決定した。
Elaboration: Software開発の初期に行ったWeb UIのアンケートの段階において橋本准教授から、毒素タンパク質の改良による悪用が考えられるとの指摘をいただいていた。そのためその後川口教授や製薬会社へのHuman Practiceにおいて毒素、病原性ウイルスやそのスパイクタンパク質のフィルタリングによるセーフティなど、生物学的なリスクを排除する手段への構想を固めていた。一方で、同時期に行われた宮前准教授へのHuman Practiceの結果得られた「未公開データをSoftwareに入力することへの懸念」に対しては有効な手段を実装できずにいた。そこで、同様にタンパク質を研究領域としている橋本准教授に生物学的リスクを排除する手立てに対するアドバイスおよび、データ保持にまつわる権利関連の課題への対応についての意見を求めた。 Human Practiceの結果得た知見より、我々が考慮すべき懸念は以下の3つに分けられる。 (a) 未公開データの入力に対する懸念(情報漏洩リスク) (b) AIによる改良情報の取り扱いに関する懸念(知的財産権の問題) (c) ソフトウェアが悪用される懸念(生物学的リスク) まず、宮前准教授との対話から、研究者が自身の未公開データを我々の管理するAIに入力することに、情報漏洩のリスクを感じるという懸念(a)が明らかになった。さらに、橋本准教授からは、AIが生成した改良情報将来的な特許化の妨げになりかねないという、知的財産権に関する懸念(b)も指摘された。これらは、研究者に安心してSoftwareを利用してもらう上で、解決すべき重要な課題である。これに対して、橋本准教授は我々がどれだけ信頼性を担保できるかが課題であるとの助言をいただき、入力情報のデータ保持に関する免責事項や利用規約を表示した上で秘密保持への同意を得ることによってこれらの課題に対処するべきであるとの結論に至った。また悪用をしないことへの同意とそれに対する利用者の自署を義務付けることによって悪用への抑止力になるのではないかとの提案もいただいた。 この結果を受けて我々は、入力された配列情報や改良された配列情報をiGEM TSUKUBAが使用しないこと、研究倫理上の問題等があった場合を除いて第三者にデータを開示しないといった内容で秘密保持契約を明記することを決定した。また、30日間データを保持し、それ以降は配列情報以外の機能値を復元不可能な形で削除することも橋本准教授との議論になったため、この機能も実装を目指すこととした。

Date: 16/Sep/2025
Who: 岡林浩嗣准教授(筑波大学生存ダイナミクス研究センター)
Summary:
これまでのIHP活動で示唆されていた「ブラックリスト方式の限界」と「免責事項による補完」という方針に対し、専門家である岡林先生から強力な支持を得たことで、チームとして明確なコンセンサスを形成し、具体的な安全設計として実装することを最終決定した。
Elaboration:
これまでの専門家との対話を通じて、我々のプロジェクトが実装すべき安全対策について、2つの重要な論点が浮かび上がっていた。それは、既知の危険な配列を集約したブラックリストによる利用制限には限界があること、そして、その補完策として、利用者に責任の所在を明示する免責事項の追加が有効であるということである。
今回の岡林先生との対話の目的は、この2つ対策の妥当性について、安全保障や法規制の専門的な観点から検証することにあった。議論の中で、岡林先生は我々の見解を肯定し、やはり技術的に完全なブラックリストの構築は極めて困難であると指摘した。その上で、免責事項への同意を利用の前提とし、潜在的リスクをユーザーに警告するシステムの方が、開発者の責任を示す上で現実的かつ効果的であると明確に支持した。
また、我々が開発しているSoftwareの提供するサービスの範囲では実際にタンパク質は合成されることはなく、タンパク質の有害な性質を増強したことを検証することはできない。このことから仮に我々のサービスを用いて設計した配列が生物兵器として使われるなどの悪用があっても責任に問われるのはタンパク質を合成した研究者であり、サービスに違法性が認められることはないだろうとのことであった。そのため、一案としてカルタヘナ法などのwet実験に関する規制が徹底されている国のみに公開することによって、悪用を防ぐことも可能であるとのご提案をいただいた。ただしいずれにせよ、免責事項等によって開発者の意図や責任を明示しておくことはサービスを守るために必要なことであるとのことであった。
岡林先生からの客観的な支持は、我々の内部議論に決着をつける決定的な役割を果たした。これにより、ブラックリストによるセーフティと免責事項による補完の両方による安全設計を行うことを決めた。
Educationに関するHuman Practicesは、実施するEducationの質を高めること、安全にEducationを実施することの2つの目的を達成するために行なった。それぞれのHuman Practiceは、Educationの各企画に合わせて行なったものであるが、そこで得られた知見はその後のEducationをやる際に生かされており、そこで足りなかったものをまた再度専門家に聞いて補っていった。例えば、通常の遺伝子組換え実験を教育目的で行う際の条件や制約、遵守すべき事項について聞いた。これにより遺伝子組換え実験をEducationとしてできるようになった。次に、不特定多数の人々が出入りする部屋に組換え体をアートとして展示する場合の、安全性を保つための工夫について聞いた。これによって、教育目的でかつ展示の形で多様な人々に見てもらうことができるようになった。最後に、個人の配列情報を扱うことについて聞いたことで、Educationで遺伝子組換え実験を行う際に気をつけるべき事項として、法的な問題と安全性に加えて倫理的な課題があることがわかった。このように、遺伝子組換えやその周辺技術をEducation企画として実施できる形にするために、その都度専門家に話を聞くことによって、チーム内により良いEducationを行うための知見を蓄積してきた。
Date: 13/Feb/2024
Who: X准教授(A国立大学)
Summary:
我々は各Educationの振り返りのためにアンケートを作成していたが、そのアンケートが十分な精度であるかについては、不安が残る状態であった。そこで、A国立大学で理科教育学を専門としており、研究の一環でアンケート調査を行うこともある専門家にお話を伺った。その結果、質問文は簡潔かつ明確に、1つの内容のみを聞くこと、段階評価の際にはより客観的な判断ができる語を用いること、企画目的を明確にした上でそれを評価するための質問項目を考えることなどのことに気をつけるべきだということがわかった。これらを踏まえて、我々は今後より精度の高いアンケートを作成できるよう努めた。
Elaboration:
我々はEducationを実施するごとにアンケートを作成し、生徒からの回答を集めてEducationの評価を行ってきた。しかし、アンケートに関して正しい知識がある状態で作ったものであり、問題なく有効な回答が集められているかに関して不安が残る状態であった。そこで、理科教育学を専門としており、アンケート調査を行って研究を行うこともあるX准教授にお話を伺うこととした。X准教授には、直近のEducationに向けて作成したアンケートの質問文を確認していただき、それを踏まえてフィードバック及びアドバイスをいただいた。
まず、確認していただいたアンケートの質問文では、何を問うているのかが不透明であるとの指摘を受けた。例えば「あなたは生物学の知識がありますか」という質問では、生物学という非常に広い範囲の質問になってしまい適切な回答が得られない恐れがある。そこで、「遺伝学の~」や「遺伝学に関する○○」のという風に、そのEducationの内容に沿って、ある程度質問内容が示す範囲を絞る必要があると教えていただいた。一方で詳細な質問にしてしまうと、質問文の内容が知識を与えてしまっており、思考誘導になる恐れがあるため、アンケートをとる目的に合わせて適切な質問文を作成するのが重要であるとのご意見をいただいた。
また、質問の中に問う内容が複数存在する二重質問をしないようにというアドバイスいただいた。例としては「○○の知識や経験がありますか」という風に、片方はYesだが片方はNoという可能性が存在する質問文は避けた方が良いということであった。加えて、回答の選択肢の文言に、「やや」や「非常に」といった人によって受け取り方が異なる文言を使うことを避け、代わりに「どちらかといえば」というような文言を使うとバランスのよい選択肢になるとご教示いただいた。
これらを踏まえて作成したアンケート結果の処理について、t検定等の検定結果の有意性は専門家の間でも意見が分かれており、iGEMが行える規模でのイベント実施の際はグラフ等を用いて結果を可視化するのみにとどめ、統計的な分析をしなくても十分ではないかご提案いただいた。
最後に質問文や選択肢、結果処理も重要だが、最も重要である事は、Eduの目的が明確になっていることと、その目的を達成できているかがわかるアンケートになっているかということだというお言葉をいただいた。
以上の意見を踏まえて、これ以降のEducationで行うアンケートは簡潔でかつ内容の重複がなく、その意味が比較的明確に取りやすい語句を用いることを意識して作成していくこととした。また最終的な目標を定めることで、アンケートによる評価がより一層意義のあるものになるようにすることを決定した。
Date: 10/Jul/2025
Who: 兼森 芳紀 助教 (筑波大学)
Summary:
高校生を対象としたPCRワークショップの実施にあたり、参加者本人の遺伝子情報を取り扱うため、インフォームドコンセントの取得方法について専門家にご助言をいただいた。この対話を通じて、倫理的配慮に基づいた適切な同意取得の重要性を再認識し、具体的な同意書の雛形や注意点に関する知見を得た。
Elaboration:
当初、我々のチームはアルコール代謝に関わるALDH2遺伝子多型を題材に、高校生が自身のDNAを解析する体験型のPCRワークショップを計画していた。これは、遺伝子が体質に与える影響を身近なテーマで学ぶ絶好の機会だと考えていたからである。
しかし、参加者(特に未成年者)の遺伝情報という極めて機微な個人情報を扱うにあたり、倫理的配慮が十分であるかという懸念がチーム内で生じた。そこで、過去に同様の学生実験でインフォームドコンセントの取得経験が豊富な筑波大学の助教である兼森准教授に助言を仰いだ。
面談では、単に同意書を用意するだけでは不十分であることが明確になった。先生からは、以下の決定的な指摘を受けた。
二重の同意の必要性: 未成年者の場合、本人の理解と同意(アセント)に加え、保護者の法的な同意(コンセント)が必須であることの複雑さ。
心理的影響への配慮: 検査結果が本人に与えうる心理的な影響や、偶発的に判明する可能性のある情報へのケアが求められること。
制度的障壁: 最も決定的だったのは、大学と異なり多くの高校には倫理審査委員会(IRB)が存在せず、計画の倫理的妥当性を客観的に審査・承認する仕組み自体がないという制度上の根本的な障壁であった。
善意の教育活動であっても、適切な倫理的・制度的プロセスを欠いては実施できないという、厳しい現実を目の当たりにした。
この対話の結果、我々はALDH2遺伝子解析ワークショップの計画を完全に白紙に戻した。そして、この学びをプロジェクトに統合するため、倫理的な課題を完全にクリアできる代替案を模索した。その結果、スーパーマーケットで入手できる食肉(牛、豚、鶏など)のDNAを抽出し、PCRでその種類を同定するという、全く新しいワークショップへと変更した。この新計画は、インフォームドコンセントの問題を回避しつつ、PCR技術の面白さや、食品偽装問題といった社会課題への応用を伝えることができる、より洗練された教育プログラムとなった。





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